Dressing Them Up

タカラヅカが好きです

鍵はかけていないから、どうぞ

アルジャーノンに花束を
久しぶりに荻田演出作品を見たひとのとても荻田寄りの感想です。もう先生でなくても便宜上荻田先生呼びです。

原作を読んだのはずいぶん昔なので粗筋を辛うじて覚えているくらい。
初演は観られなかったので、CDだけ聴いていました。
ウォレン以降の曲がお気に入りで何回もリピートしていました。
「星は無く灯台の灯も消えた」のところが特に好きで、ここのシーンが見たくてたまらなかったのでした。

何と無く先入観もあるかもしれないのだけど、肉親や近しい女性への後ろめたくも抗い難い憧れとか、近しいからこそ感じてしまう差異への畏れのようなものは荻田演出の色を感じました。荻田作品のそういうところにいつだって過剰反応してしまう、とも言いますが。
彩音ちゃんは退団後初めて(先日の祭典は中継で観たけれど)見ました。
私が彩音ちゃんのことを好ましく思っていたところがあの頃のまま、もっとくっきりと輪郭を持っているようで嬉しかったです。
「外」の舞台で見ると元娘役さんの清潔感って本当に感心するのですが、荻田先生は娘役OGのそういう性質を存分に活かしているなーと思います。(元男役さんの性質はもちろん)
彩音ちゃんの横顔の静かで植物的なところと、令嬢の空気と、張り詰めた声も甘いところ。身体のしなやかで強いところ。
泥の中でも静かに白く咲いている蓮の花みたいな、もっともっと直接的に言えば処女性の具現化みたいなイメージでいるので、その彩音ちゃんが母親役って個人的にはこれ以上無いくらいに倒錯的でたまらなかったです。
あと歌声がクリアで強くなってて正直驚きました。
荻田先生のタキシードジャズの彩音ちゃんは、春野さんとけして交わらない時間で存在している夢のなかの女の人でした。デュエットダンスの最後の横顔が静かで、寄り添っていても遠くにいるようで少し哀しいような不思議な表情に見えてずっと覚えています。
この役は初演ではたぶん朝澄さんだったんでしょうか。ジェンナーロだもんね。白い鳩だもんね。それにしても荻田先生の愛が重いな…てちょっと考え込みますね。

浦井さん久しぶりな気がする…蜘蛛女再演以来??いやそんなにいろんなものを観劇しているわけでは無いから久しぶりも何もですけど。
彼はラハジャマティを知らない、あたりがとても良かったです。チャーリーについて流石とか良かった以外に何て言ったらいいかわからない…
繊細なおとこのひとの、それでも若く力強い頃には傲慢で酷い面が少しも無いわけはないよね、ていうところが見えるのが浦井さん面白いなー。
それは声のトーンや佇まいや割合肉付きがちゃんとしてるところ(!)とか、はっきり言い表せないところに時折見えてハッとします。
生身の男のひとの肉体の後ろめたさと匂いと、無垢とを両立出来るひとは実際成人男性にそんなにいないと思うので、荻田作品常連なのはそういうところなのかな。浦井さんの役はいつも面白そうだなと思って遠巻きに感心しています。

アリス!好意しか感じられない!
アリスが安寿さんで無かったら、この作品は少なくともこういう手の届かない憧れとか痛いイタいあれやそれやに満ちた暴力的で美しい作品にならなかったと思います。

2種類の女性が出てきて一方が天上的な不可侵の女性として現れたら、もう一方の地上的な女性がわりかし酷い目に合うことに定評のある(私のなかで)荻田演出ですが
彼女は非常階段、のところ 曲は知ってたのに実際観て一番愕然となった場面があそこでした。私と踊って でなんか息止まりそうでした。

「見えるのは、世界」は実際観ていても大変綺麗で良かったので、あんなに目から耳から夢中になれるものはそうそう出会えない大事にしまっておこうと思って見ていました。

原作に忠実だろうに思い返すと荻田としか思えない荻田作品だったなあという印象です。私はしょせん荻田信者…ですけど、良い塩梅に縛りがあるときのほうが好きですね。